死ぬことを恐れたり忌み嫌う人は多いが、わたしとって死は身近でどこか懐かしい。
肉親が早くに亡くなり、 これ以上なく尊敬する人ももうこの世にいないからだと思う。
死ぬことがあまり怖くない代わりに、生への執着もあまりない。
幸運なことに、人生から出された宿題はぜんぶやり終えたから、
積極的に死にたいとも思わないが、 いま死んだら困る明確な理由もない。
心の底から生まれてきてよかったと思える体験をひとつくらいはしたい。
だけどがむしゃらに追い求めるのも違う気がして、 生きる希望というにはあまりにも脆弱だ。
そういう、棺桶に片足を入れているような心持ちだから、
感情や感情でないものや、
私のものやわたしのものでないものを、
瞑想の間に安心して死ねると、 もう少し生きるかと現実に戻ってこられる。
どう思われたっていいから書いてしまお う。
明け渡して、狂って、瞑想のすきまで、
わたしは死んだ。
そのときいたのは、 死んでしまった大切な人が描き残した絵の中だった。
あかるい色の、
あたたかでおだやかな海だった。
死んでいるのか、ここから生まれてくるのか、
この瞬間のために、あの人は絵をおいていってくれたんだと思う。
時が来たら、わたしがあたらしく創造するために、 タイマーをセットしてくれたのだ。
現実に何が起こるかはわからない。
何か起こるかもしれないし、
何も起こらないかもしれない。
でも、たぶん、生まれ変わるんだと思う。
そういう予感のそういう話。